原状回復はどこまでが経年劣化と認められるか?

賃貸マンションの退去時に、入居者は入居前の状態に戻す原状回復の義務を負うこととなります。入居者が費用を負担する原状回復の範囲には、経年劣化による部屋の損傷は含まれません。では、原状回復工事の際に、どこまでが経年劣化と認められ、どこからが入居者の負担となってくるのでしょうか。

今回は、原状回復と経年劣化の関係についてご紹介します。

1.経年劣化とは?
■経年劣化が意味するもの
経年劣化とは、年月が経つにつれて自然に物の品質や価値が低下することを指します。
賃貸マンションの場合の経年劣化とは、窓から入る日差しによって壁紙が色あせてしまったり、壁紙の継ぎ目が剥がれてきたり、給湯器やインターフォンなどの設備が時間の経過とともに不具合が生じやすくなったり、ドアのネジが緩んで開閉しにくくなったりすることなどが考えられます。
経年劣化とは、このように時間の経過とともに自然に劣化していくことを示す言葉です。

■経年劣化と通常損耗
年月の経過とともに劣化する経年劣化とは別に、通常の使用をしていても日常生活の中で生じてしまう傷や汚れを通常損耗と言います。通常損耗に該当するのは、家具や家電を設置したところにできるカーペットのへこみ、冷蔵庫の裏に生じる壁の黒ずみなどがあげられます。
これらの損傷は、どんな人が住んだとしてもある程度は生じてしまうものであり、入居者の過失によるものではないと考えられています。

■国土交通省の原状回復をめぐるトラブルとガイドライン
国土交通省は、賃貸借契約において原状回復をめぐるトラブルが発生しやすいことから、原状回復についてのガイドラインを定めています。このガイドラインの中では、経年劣化や通常損耗により生じた劣化や損傷の原状回復は、入居者側に費用の負担を求めるものではなく、貸主側に責任があることを示しています。

2.原状回復と耐用年数・経年劣化の考え方
■耐用年数とは
入居者の過失によって建物に損傷を与えてしまった場合、入居者は原状回復にかかる費用を負担しなければなりません。それとは別に、年月の変化にともなう経年劣化と通常の生活を送ることで生じる通常損耗によって、建物の価値は次第に下がっていきます。

しかし、入居者が原状回復の費用を負担する場合、その費用の全額を負担する必要はなく、経年劣化や通常損耗によって傷んだ分は差し引かれることになります。
この時に、経年劣化分と通常損耗によって失われた価値を差し引き、入居者が負担すべき金額を正しく算出するために、内装や設備ごとに耐用年数が定められています。

■耐用年数と原状回復費用の計算
国土交通省の原状回復に関するガイドラインにおいて、最も代表的なのは壁紙の耐用年数6年というものでしょう。この耐用年数と費用負担の計算方法についてご説明します。

たとえば、新築から3年間入居したマンションの壁紙全面に喫煙による臭いや黄ばみを生じさせてしまい、壁紙の原状回復が必要となった場合(入居者負担となった場合)を考えます。壁紙の耐用年数は6年と設定されているため、3年後の壁紙の残存価値は半分になっていると算出されます。そのため、壁紙の張り替え費用に15万円が必要となった場合、入居者が負担するべき金額はその半分の7万5千円となります。

3.経年劣化のチェックポイント
入居者には退去時の原状回復が義務付けられていますが、経年劣化や通常損耗として認められる劣化や損傷については、入居者はその責任を負う必要はありません。
では、どこまでが経年劣化や通常消耗として認められるのでしょうか。

■壁紙
日光による日焼け、画びょうを指したことによる穴は、経年劣化や通常消耗の範囲です。
しかし、煙草のヤニによる汚れ、子供の落書き、掃除を怠ったために生じたカビなどは、入居者の責任となり原状回復義務が生じます。

■浴室やトイレ
浴室のパッキンの劣化や、トイレの壁紙の黄ばみなどは、経年劣化として認められます。
しかし、浴室の鏡を割ってしまった場合や便座の蓋を壊してしまったような場合は原状回復の対象となります。

4.まとめ
入居者が退去する際、故意や過失によって建物に与えてしまった損傷については、原状回復の責務を負います。しかし、経年劣化や通常損耗による損傷は、入居者負担の原状回復の対象とはならず、貸主側の責任において原状回復を行なうことが国土交通省の原状回復ガイドラインの中で示されています。
また、入居者負担の原状回復の対象となった場合でも、経過年数や内装・設備の耐用年数によって入居者が負担すべき金額が算出されます。そのため、必ずしも原状回復費用のすべてが入居者の負担となるわけではありません。
以上
 

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