不動産テックについて(VR・AR編)
VRとはVirtual Realityの略語で、日本語では「仮想現実」や「人工現実感」と訳されます。ユーザーの五感を含む感覚を刺激することで、現実には存在しないものをあたかも実在の物であるような体験をさせる技術です。特に最近はヘッドギア型のディスプレイの開発が盛んで、CG(コンピューターグラフィックス)を駆使してつくられた仮想世界を覗きこむことにより、あたかも現実の映像を見ているかのような体験をすることが可能になりました。
一方のARは、Augmented Realityの略語で、「拡張現実」を意味します。目の前の現実の世界に対して、コンピューターを用いてバーチャルな情報を追加・拡張する技術です。メガネタイプのディスプレイを装着して、現実世界を見ながらそこにバーチャルな情報を重ねて認識するような、映画やアニメで見た世界をかなえるものです。最近では、「スマホ×AR」がよく知られています。目の前にある何もない空間をスマートフォンのカメラとディスプレイを通して見ると、その空間に、物や人間などが配置されたり、存在したりしているように見える、というサービスです。こうしたスマホゲームを体験したことのある方も多いのではないでしょうか。
つまり、VRはリアリティを高めた「仮想現実(非現実世界)」であり、対してARは現実世界に視覚情報を重複表示させる「拡張現実(現実世界+α)」です。
このようにVRとARは似て非なるもので、むしろ対照的な存在といえるかもしれません。
(1)VR内見
ここからは、VRあるいはARといった技術が不動産テックとしてどのように活用されているかをご紹介していきます。
まず、VR内見についてご紹介します。
この技術は徐々に市場へも浸透してきていますので、既に活用された経験のある方もいらっしゃるかと思いますが、VRを利用して現地まで行かずに物件の内見ができるサービスです。
不動産を購入する際または賃貸住宅を契約する際、現物としての家や部屋または周辺環境を確認することで、実際の生活をイメージすること、あるいは入居後にギャップが生じないようにするため、直接足を運んで事前に物件を見ておくことは必要不可欠です。しかし、賃貸住宅においては複数の住戸を内見して契約する住戸を決める方も多いと思いますが、それら候補物件を見て回る移動時間だけでも相当の時間がかかってしまいます。また、良さそうな物件が見つかったとしても募集開始時にはテナントが居住しているケースも多く、退去が完了するまで実際に内見することはできません。このような制限がある中で、VR内見を活用することで、時間的な問題や内見できない問題をクリアすることが可能になるのです。
2016年頃、一般の消費者向けのVRヘッドマウントディスプレイが各社から一斉に発売され、家庭用ゲーム機やアミューズメント施設にVRが導入されVRがより身近に体験できるようになりました。さまざまなメディアで2016年がVR元年と呼ばれる理由はそのためです。以降、不動産のみならず、さまざまな分野でこの技術が使われるようになりました。
(2)VR内見の利用・撮影方法
VR内見のシステムは、先ず3DのVR動画が撮影できる360°カメラで物件の撮影を行ないます(360°カメラの技術が採用されている最もわかりやすい例として「Googleストリートビュー」があげられます。あたかもその土地、その場所に行ったかのような体験ができますので、利用されている方も多いのではないでしょうか)。業者が撮影したVR用データをWebサイトにアップし、顧客はスマートフォンとVRゴーグルなどで疑似内見ができるようになります。仲介業者の店舗で体験できることはもちろん、家庭でも好きなタイミングで好きな物件を内見できるのがポイントです。さらに、遠隔同期機能を利用するとミラーリングが可能となります。例えば、仲介店舗で顧客が見ている画面を他のデバイスでも表示できるため、店舗の担当者がコンテンツの中身について同じ画面を見ながら明快に説明することができます。
(3)VR内見と実際の内見の違い
VR内見と実際の内見とではどのような違いがあるか、それぞれのメリットとデメリットを紹介します。
① VR内見
◆メリット
・現地まで足を運ぶ必要がなく、全国どこに居ても希望の物件を内見できる
・建築途中、工事中、入居中の物件も仮想体験できる
◆デメリット
・細部(フローリングや壁紙の質感等)を再現するのは難しい
・VRで再現できない要素は体験できない(音、匂い等)
・実物を見ていないため、VRだけでは確信や安心感が得られない可能性がある
・VRの映像に慣れていない場合、酔う可能性がある
② 実際の内見
◆メリット
・実物を五感で体験できる
・周辺環境も確認できるため、納得感が高い
◆デメリット
・物件を見に行くのに時間がかかる
・複数の内見は煩わしい
・入居中の物件は内見できない
・案内してくれる仲介会社とのスケジュール調整が必要
以上が代表的なメリットとデメリットです。
時間的制約がなくなる点をはじめとして便利に使えるVR内見ですが、現状ではまだ実際に「内見する物件の選定」のために使われているケースが多いようです。今後、VR技術が進化すれば、「VR内見のみで物件を決める」パターンが一般的になっていくかもしれませんが、消費者へのVRの浸透と不動産会社での技術対応・準備も必要になり、課題も多いというのが現状でしょうか。
続いてARについても具体例をご紹介します。
実際の内見時には、AR技術が力を発揮します。例えば、実際に内見した時には、モデルルームにでもなっていなければ基本的にはただの空き部屋であり家具等は設置されていないのが一般的です。そうなると「家具を設置したらどうなるのか」など具体的な生活イメージがなかなか湧きませんし、持っている家具や新調する家具のサイズを測っては再度内見して大きさを確かめたりと、何度も現地に足を運ぶ場合もあるでしょう。しかし、AR技術を活用すれば、スマホカメラを使って現実の空間に 3D データの家具を配置して試したり、実際のブランドアイテムを好きなように設置して新生活をシミュレーションすることも可能になります。
VRとあわせて活用することで、現地には一回も行かずに内見から家具の配置シミュレーションまで済ませることも可能になり得るわけです。先に例としてあげたGoogleストリートビューなども活用すれば周辺環境も確認できますし、インターネットを活用すれば周辺施設情報も収集できます。
物件の内見をVR・ARで体験することは顧客にとっても便利なシステムですが、不動産会社にとってもコスト削減や時間的制約が少なくなるといったメリットだけでなく、物件の成約率向上、空き部屋の減少、顧客満足度の向上などと、多くのメリットが生まれる可能性があります。
もともと動的要素を持たない不動産に、その要素を付加するのがVR・ARの技術であり、両者の親和性は非常に高いと言われています。
今後もVR・AR導入は加速化していくとみられ、注視する必要がありそうです。
以上
更新日:2020年5月25日