「原状回復」のガイドライン

今回の記事では賃借人の義務である原状回復についてのガイドラインである国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」についてお伝えしていきます。同ガイドラインの策定の経緯や目的、さらに注目すべきポイントをご紹介していきましょう。

原状回復ガイドライン策定の経緯

借りた建物を退去する際、賃借人には原状回復の義務があります。原状回復のために必要な費用については賃借人負担となり、賃借人の敷金が充当されるのが一般的です。しかし、この原状回復についてどこまでが賃借人の負担となるのかといった責任の範囲をめぐり、従来からトラブルが絶えません。

トラブルの主な要因として、本来は賃借人が負うべき原状回復義務の範囲外である賃貸物件の経年変化や通常損耗についても賃借人の費用負担で補修されるようなケースが多数発生してきたためです。そこでそのような賃借人の退去時におけるトラブルを防ぐための一般的な基準を示すためのガイドラインが当時の建設省(現在の国土交通省)によって1998年3月に公表されるにいたりました(国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」:https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/torikumi/honbun2.pdf)。

このガイドラインではトラブル防止のために賃貸人と賃借人双方の原状回復義務の負担割合を具体的に示しています。そして裁判所の判決についてもその多くがガイドラインの考え方に沿ったものになっています。

このガイドラインは1998年の初版が出た後、改訂版が2004年(平成16年)2月、そして再改訂版として2011年(平成23年) 8月に「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」という冊子が国土交通省から発表されています。
次にガイドライン策定の目的と注目すべきポイントについてお伝えしていきます。

ガイドライン策定の目的

国土交通省のガイドラインですが、策定された目的は原状回復をめぐるトラブル防止のための一般的な基準と同時に実際に紛争が起きた場合の訴訟手続きを示すことにあります。そのためにまずは「賃借人が負うべき原状回復義務とは何か」という定義を伝えています。さらに原状回復義務の定義に基づいて賃貸人と賃借人の原状回復に必要な費用の負担割合について具体的に示すこととしています。

また、原状回復のトラブル防止のためには入口である契約時がとても重要であるとしています。その際には契約の当事者双方が原状回復の条件について合意しておくことや、物件の損耗などの現状確認を立会いなどにより適切におこなうことを推奨しています。

そのためにガイドラインでは賃貸契約書についての基本的な考え方を記載し、契約時の参考になるようにするとともに、裁判の判例や取引事例も参考にした費用負担のあり方も示すこととしています。そして実際に契約する際には契約条件等、その内容において問題があるような場合に参照するための参考情報を提供することもガイドラインの趣旨となっています。

ガイドラインのポイント

ガイドラインは、トラブル防止のための指針となるべく、以下のような3つの項目から構成されています。それぞれの注目すべきポイントについてお伝えしていきましょう。

第1章 原状回復にかかるガイドライン

この章ではまず原状回復に関するトラブル防止のために入居前の物件の状況確認を徹底すべきだということを注意喚起し、物件状況の確認リストも載せています。また、契約時の原状回復についての契約条件や特約については要件を示し、契約書作成の参考となるようにもしています。

また、契約終了時における賃借人の原状回復義務や費用負担すべき範囲について定義し、具体的な算定方法についても示されています。それと同時に建物の経年変化や損耗についての考え方の記載もあります。

第2章 トラブルの迅速な解決にかかる制度

この章では実際に紛争になった場合、その解決の方策が示されています。ここではその方策として「少額訴訟手続」や「裁判外紛争処理制度(調停・仲裁)」、地方公共団体の相談窓口や消費生活センターといった行政機関への相談も可能である点について紹介されています。

第3章 原状回復にかかる判例の動向

この章では原状回復に関する過去の判例が参考として紹介されています。事例として紹介される判例ごとに争点となった部位(クロス張替え、など)や賃借人の負担とされた部分(クッションフロア部分補修、など)といった具体的な情報が掲載されています。さらに関連する各判例についての事案の概要や判決の要旨についての記載もあります。

ガイドラインと改正民法

お伝えしてきたようにガイドラインは原状回復をめぐるトラブルの未然防止のための指針として重要な役割がありますが、一方で法的な拘束力はありません。仮に原状回復の責任の範囲について賃借人に不利な条件の特約などがあっても、契約の当事者双方が合意していれば「契約自由の原則」によって、ガイドラインの内容よりも契約そのものの履行が優先されることになります。

しかし、2020年4月に施行される民法改正によって、賃借人の原状回復義務の範囲や敷金の考え方が明確化されることになりました。従って、改正民法の施行後は原状回復についてのトラブル解消に向けて前進することが期待されています。

まとめ

今回は国土交通省の原状回復に関するトラブル防止のためのガイドラインの内容についてお伝えしてきました。ガイドラインは現在でも重要な役割を担っていますが、それと同時に法改正も行なわれてきており、最新情報について常にアンテナを張っておくことも大切になります。

以上

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