原状回復にかかる費用はどこまで賃借人に請求できる?

賃借人が退去した建物は程度の差はありますが、クロス壁の張替えや畳の交換など原状回復のための工事が必要になってきます。そこでそのようなリフォーム工事において賃借人が負担すべき費用の割合についてお伝えしていきます。

原状回復リフォーム工事の内容と負担区分とは?

原状回復に必要なリフォーム工事にはどのようなものがあるのか、事例をお伝えします。
まず、リフォーム工事は大きく分けて「賃借人が費用負担すべき損耗」と「賃貸人が費用負担すべき損耗」の2種類があり、具体例としては以下のようなリフォーム工事があります。

賃借人の費用負担で原状回復すべきリフォーム工事

・床や壁に故意でつけられたキズや大きな穴の補修
・冷蔵庫やピアノなど大きな家具によりついた汚れや、キズがつけられたフローリングの張替え
・タバコのヤニで出来たシミや、黄ばみ汚れのついたクロスの張替え
・ペットによってつけられた柱や床のキズの補修や部分張替え
・手入れをしなかったために生じた壁や床のクリーニングや張替え

賃貸人の費用負担で原状回復すべきリフォーム工事

・日焼けによって色あせたフローリングや畳の交換
・故障したエアコンやガス器具といった設備の修理や交換
・日常生活で通常の使用範囲で生じる床の擦りキズ等の補修

参考までに原状回復リフォーム工事の費用相場ですが、一般的なリフォーム工事の場合、10万円台から数十万円といったものになります。ただし、実際にかかる費用は全体の面積や賃借人の使用状況、また、借りていた期間(使用期間)などによって室内の状況はまちまちですし、使用する部材や仕上げ方によっても当然ながら相場は異なってきます。また、ほぼ同じような工事内容であっても請け負う業者や管理会社によっても見積もり金額に差が生じてしまうものです。

経過年数(使用年数)と費用負担割合の関係

原状回復リフォーム費用については賃借人がその全てを負担する義務はありません。その理由は経年変化や通常損耗など賃借人の故意過失によらないものについては、契約書上で特約などが設定されていない限り賃貸人負担となるからです。

従って、原状回復リフォーム費用における賃借人が負担すべき割合は、経年変化や通常損耗による資産価値の減少を差し引き、設備や内外装部材の耐用年数と工事後の経過年数(使用年数)を基準として考えることになります。国土交通省による「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」においては、各設備や部材といった項目毎の耐用年数を基準とする考え方が示されています。

例えば、内装材については壁・クロス・住宅用のじゅうたんが6年といった具合に耐用年数を定めており、設備ではキッチンの流し台が5年、エアコンが6年、トイレ便器が15年、ユニットバスは建物の耐用年数に準じるもの(例:RC造で47年、等)となっています。さらに耐用年数が経過した設備や内外装部材については、その資産価値が1円となる点には注意が必要です。

設備や内外装部材の耐用年数と工事した後の経過年数の考え方に基づいて賃借人の費用負担割合を見てみましょう。例えば、耐用年数が6年のクロスの張替えのためのリフォーム費用が18万円かかり、張替え後の経過年数は2年とします。この場合、耐用年数6年に対して3分の1の2年が経過期間となり、賃借人が負担すべきリフォーム費用は18万円の3分の2の12万円(残った価値分)という計算になります(通常損耗の範囲内であればこの限りではありません)。
また、同じ例において経過期間が6年を超えて10年などとなった場合、クロスの価値は1円となるため、賃借人の費用負担は故意過失によるものがあったとしても場合によっては実質ゼロということにもなります。

なお、耐用年数を計算する場合、その始まりはあくまで設備や部材が設置されてからである点には注意が必要です。上記の例では賃借人の入居直前にクロスを張替えたような場合には耐用年数の減少と入居期間でズレがない前提ですので、お伝えしたような費用負担となりますが、張り替えた時期と入居開始時期が大きく異なるような場合には、その点を考慮して計算しなければならないのです。

重要な現地調査とリフォーム費用の見積もり

原状回復リフォーム工事は建物の築年数、使用状況によってかかるコストは大きく異なりますし、様々な要因によって想定外の費用が発生することもあります。
それらの費用については、建物の劣化状況などへの対応や今後発生しうる不具合への対策を含めて、中~長期的な視野にたった考え方を管理会社から提示してもらうことや、複数の見積もりを取得して適正価格を理解することが重要です。

まとめ

今回の記事では、原状回復リフォーム工事の負担区分と賃借人の原状回復リフォーム工事の費用負担割合について解説してきました。特に賃借人の費用負担の考え方については、経過年数と各設備や部材の耐用年数の関係が一つの目安となっています。ただし、実際の使用状況などに応じて相場とは異なる場合もありますので、リフォーム会社による使用状況の詳細確認と適切な工事方法の選択、さらにそれらを元にした見積書の取得が重要といえます。

以上

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