原状回復に関するよくあるトラブルとその対策

賃借人が賃貸住宅を退去する際には、原状回復工事の費用を賃借人と賃貸人のどちらが負担するかをめぐり、トラブルが発生することも少なくありません。それを裏付けるように賃貸住宅の原状回復に関するトラブルなどによる消費者紛争の解決をサポートしている独立行政法人国民生活センターには毎年1万3,000件前後もの相談が寄せられています。そこで今回はよくあるトラブルの事例と対策についてお伝えしていきます。

トラブル事例:賃借人への過剰請求

賃借人に関するトラブルで多い事例として、本来は賃貸人の費用負担となる経年劣化や通常損耗に対する原状回復費用が賃借人に請求するというケースがあります。また、同様に頻発するトラブルとしては、原状回復の範囲が拡大され、賃借人に過剰な工事費用が請求されたりするケースもあります。

経年変化や通常損耗を要因とする建物内部の損傷や劣化に対する原状回復は本来であれば賃貸人の負担で行なうべきものです。しかしながら、このような損傷や劣化に対する原状回復工事費用が賃借人に請求されるケースがあるためにトラブルの要因となっています。

また、トラブルの中には賃貸人の原状回復の拡大解釈をめぐるものもあります。賃貸人のほうで「自然損耗や経年劣化を含めて借りる前の状態に戻すこと」が原状回復であると解釈され、納得できない賃借人との間でトラブルになることがあります。以下によくある具体的なトラブルの事例をご紹介していきます。

・本来負担すべき原状回復費用以上の高額請求をされるケース
・敷金が原状回復費用として全額徴収されて返金されないケース
・口頭で説明された原状回復費用の金額と後日送付された明細の内容が異なるケース

トラブル事例:賃借人の不払い

上記の事例とは反対に賃借人に原状回復工事の費用負担があるにもかかわらず、賃借人が支払わないというケースもあります。国土交通省のガイドラインでも賃借人の故意・過失や善管注意義務違反、さらに通常の使用方法を逸脱するような方法で使用して生じた損耗は「特別損耗」と呼ばれ、賃借人に原状回復と費用負担の義務があります。以下に賃借人負担となるべきものの具体的なトラブル事例をご紹介します。

・賃借人の喫煙により壁紙についてしまったヤニや、タバコの不始末によってフローリングや畳にできた焦げ跡のために原状回復費用が高額になったケース
・ペット不可物件だったにもかかわらずペットが飼われたために染みついた部屋の匂いや汚れに関する原状回復費用を請求したというケース
・賃借人が日常の手入れをしなかったことで高額になった原状回復費用を請求したというケース
・クーラーの水漏れを放置したことによる壁やフローリングの腐食や浮きに関する原状回復費用や、キッチンや風呂場など水回りにできた水垢やカビのクリーニング費用が必要になったケース
・賃借人が故意や過失による汚損にもかかわらず、通常損耗や経年劣化であると主張され、原状回復費用の支払いを拒絶されたケース

トラブル回避のためのポイント

上記のようなトラブルを回避するためにはどのようなポイントに注意すればよいのでしょうか。大切なポイントについてお伝えしていきます。

ポイント1:契約締結時の確認

賃貸借契約を締結する際にはトラブルを未然に防止するためにも、原状回復の範囲や費用についてどこまで賃借人が負担すべきかについて契約の当事者双方でよく確認し、納得しておくことが重要です。そのためにも契約時には賃借人に原状回復と費用負担の義務があることを丁寧に説明しておくようにします。特に故意・過失や善管注意義務違反、さらに通常の使用方法を逸脱するような方法で使用したことで生じる特別損耗については、賃借人が工事費用を負担する義務がある点についてはよく理解してもらうようにすることです。

ポイント2:入退去時の物件チェック

比較的長期間にわたることが多い賃貸借では、損耗の発生箇所や時期をめぐる事実関係についてのトラブルが多発する傾向にあります。このようなトラブルを防ぐには入居時と退去時の物件の損耗や毀損の有無を当事者立会いの上で十分に確認することが大切です。その際には後日訴訟等になっても対応できるようにチェックリスクを作成し、正確な状況についての記録を漏れなくしておくと役に立ちます。国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」の中でも入退去時の賃借人と賃貸人立会いのうえでの物件確認が推奨されています。

まとめ

今回の記事では賃借人と賃貸人の双方で頻繁に起りがちなトラブルの要因や具体例とその対策についてご紹介してきました。
ほとんどのトラブルは、契約時に賃貸人から賃借人に特別損耗などへ対する原状回復義務があることを説明したり、物件使用時には善管注意義務があることを十分に説明すること、あるいは入退去時に物件の損耗の有無などについて当事者双方でしっかりと確認すれば避けられるものがほとんどです。
また、賃貸人についても通常損耗など自らの費用負担の範囲についてしっかりと理解しておくことも重要です。

以上

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