「原状回復工事」と「リノベーション工事」|入居者退去後工事の選び方
原状回復工事とリノベーション工事は、一体何が違うのでしょうか。両者の工事内容や目的の違いと、入居者の退去後に資産価値の維持あるいは向上を目的としてどちらの工事を選択するべきかについて解説します。
1.原状回復工事とは
■原状回復とは元の状態に戻すこと
原状回復工事とは、元の状態である原状に回復させる工事のことです。
原状回復工事には、入居者が費用を負担するものと貸主が費用を負担するものがあります。
入居者が賃貸借契約に基づき、通常の使用方法で日常生活を送る中で生じた傷や汚れについては、経年劣化によるものとされます。経年劣化による建物の損傷は、貸主の負担によって原状回復工事を行ない、入居者はその費用を負担する必要はありません。
しかし、入居者が賃貸借契約で示された使用方法に違反して建物を使用した場合に生じた傷や汚れ、あるいは故意や過失によって生じた損傷に関する原状回復工事の費用は入居者に請求されることになります。
■原状回復工事の具体例
まず、貸主負担の原状回復工事の例としては、直射日光による壁紙の色褪せ、冷蔵庫の裏側などに生じる壁紙の黒ずみ、家具や家電を設置したことによるカーペットのへこみ、経年劣化による給湯器やインターフォンなどの修理や交換等があたります。
一方、入居者負担となる原状回復工事の例としては、喫煙による壁紙の汚れや黄ばみ、ペットの飼育によって生じた床や建具の傷、定期的な掃除を怠ったことによって生じた水回りのカビ、家具や家電を引きずったり、ぶつけたことなどによって生じた床や建具の傷、時計や絵画などを壁に飾るために壁に打った釘やネジ穴などがあげられます。
2.リノベーション工事とは
■リノベーションとは
リノベーションは、刷新、改革、修復などを意味する英単語です。
したがいまして、リノベーション工事は以前の状態に戻すのではなく、部屋の価値をグレードアップさせる工事のことです。建築当時にはまだ一般的ではなかった設備が現在では標準的に設置されているものになっていたり、その当時は最新のデザインだった内装も流行の変化とともに古めかしいものになってしまったり、といったことが不動産業界ではよくあります。リノベーション工事は、最新の設備や機能の導入、内装デザインの変更などで部屋の価値を以前より高めるための工事を行ないます。
■リノベーション工事の具体例
リノベーション工事の例としては、音声のみだったインターフォンをモニター付きのインターフォンに変えたり、浴室に浴室乾燥機能を設置したり、トイレを温水洗浄便座に変えたり、ついている設備の機能をグレードアップすることなどが該当します。
また、壁紙を汚れにくいものに変えてお洒落なピクチャーレールを取り付けたり、押し入れや納戸を使いやすいウォークインクローゼットに作り替えたり、キッチンやリビングとして独立していた空間の間取りを変更して広いLDKにしたりといったことも、居住性を高めるリノベーション工事ですし、カーペットだった床をフローリングに張り替える事も代表的なものだといえるでしょう。
3.それぞれの工事の目的
■原状回復工事の目的とメリット
原状回復工事の目的は、傷んだ箇所を修復し、元々のあるべき姿に戻すことです。したがって、原状回復工事では壁紙を前と同じもの、あるいは同等グレードのものに張り替えたり、古くなった設備を前と同じ機能を持った新しいものに交換したりといった工事を行ないます。
修理や交換が必要になった箇所のみを工事する場合は、原状回復工事にかかる期間は短く、費用もそれほど高額になることは多くありません。そのため、貸主にとっては工事にかかるコストや次の入居者が決まるまでの空室期間を短く抑えることができるメリットがあります。
■リノベーション工事の目的とメリット
リノベーション工事は、部屋の間取りを変えたり設備や機能を最新のものに変更することによって、部屋の価値を以前よりもグレードアップさせることが目的です。原状回復工事に比べると規模の大きな工事となり、最新の機能を持つ設備の導入費用や工事費用となれば高額になることも珍しくありません。また、工期も長くなるため、入居者がいない空室期間も長くなってしまいます。
しかし、便利な機能がそろった設備が整えられ、室内もきれいで現在のライフスタイルに適した内装や間取りに替えられた部屋は、入居者にとっては魅力的なものです。築年数は経過していても、内装や設備が最新のものにリノベーションされた物件は工事前より家賃を高めに設定できる場合もあり、入居者を集めやすくなるといったメリットにもつながります。
4.まとめ
今回は、原状回復工事とリノベーション工事の違いについてご紹介しました。
元の状態に戻すのが原状回復工事であるのに対し、リノベーション工事は元の状態以上のものに作り上げ、部屋の価値を高める工事です。
建物が完成してから時間が経過し、設備や内装などが古くなっている場合は、入居者がなかなか決まらないこともあります。
そんな時は、たとえコストはかかっても原状回復工事ではなくリノベーション工事をしてみるという選択肢も一考の価値があるかもしれません。内容によっては家賃設定の変更につながったり、入居希望者を獲得しやすくなる可能性もあります。
以上
更新日:2020年3月17日