大規模修繕工事実施タイミングの「12年程度」に妥当性はあるのか?疑問をスッキリ解消
大規模修繕工事をおこなうタイミングは一般的に12年程度と言われています。また、国土交通省のガイドラインにも目安として12年程度でおこなう必要性についての記載があります。
しかし、個別物件ごとに建物の立地や施工時期・施工方法、あるいは修繕状況まで全て状況が異なるのに本当に12年程度で大規模修繕を実施するべきなのでしょうか。
今回はそんな疑問を抱いている方に向けて大規模修繕の周期についてお伝えしていきます。
国土交通省によって監修された「長期修繕計画標準様式・作成のガイドライン」というものがあります。このガイドラインでは、大規模修繕の実施時期は12年程度という目安が記載されています。
このガイドラインが登場するまでは不動産管理会社は長期修繕計画の目安を10年としていることも見受けられましたが、ガイドラインの登場とともに12年に変更するケースがあったともいわれています。このように一般的な大規模修繕の実施時期が12年と言われるようになったのは、ガイドラインの影響が大きいと考えられます。
国土交通省の「長期修繕計画標準様式・作成のガイドライン」では、大規模修繕の定義や修繕のポイント、さらに修繕すべきタイミングの目安としての記載があります。そして実際にマンションの長期修繕計画もガイドラインに記載されている「12年」「24年」「36年」といった周期で実施されているケースも見受けられます。
しかし、このようなガイドラインの修繕時期や修繕工事の内容についてはあくまで目安にすぎず、実際の大規模修繕が必ずしもガイドライン通りになるとは限りません。大規模修繕はマンションの過去の修繕履歴や劣化の状況、建物の立地や環境、使用状況、使われている部材や設備の耐用年数などの諸条件を最大限に考慮した上で決定されるべきものです。
そのため、まずは建物全体の劣化や補修が必要な箇所についての正しい現状把握が大切になります。そのような調査・診断から得られる結果によって修繕が必要な箇所についての優先順位や実施時期を決めて取り掛かることになります。そうすることで修繕する必要がない箇所の工事を避け、余計なコストを負担せずに大規模修繕を実施することが可能となるのです。
大規模修繕が本当に必要な修繕工事の内容や時期を決めるには、建物の使用状況や外壁など各部の劣化状況について正確な建物調査診断(劣化診断)が必要となります。大規模修繕は多くの費用と時間をかけておこなうため、できるだけ効率良く進めていく必要があります。正確な建物調査診断を実施することで、工事箇所毎の必要性や優先度の高いものが何かを把握できるため、建物の状況に合った適切な修繕工事が実現可能です。
資金計画の観点からみても、診断の結果によっては、工事箇所毎の劣化状況を踏まえて次回の大規模修繕に先送りして、費用を抑制できるケースもあります。
大規模修繕前に実施される建物の診断は外壁塗装、タイル、躯体、コンクリート、シーリングといった主に外壁に関する部分から、階段や手すりなどの鉄部、あるいは屋上やベランダの防水性、さらには耐震性能まで多岐に渡ります。
目視や打診によって調査の対象箇所を検査したり、耐震基準が建築基準法に適合しているかを建物の設計図から判断するといった調査をいたします。
また、劣化診断では、外壁タイルや塗装の塗膜の剥がれや目地のシーリング材の劣化、さらにコンクリートのひび割れ等を調べていきます。
なお、工事完了後には、入居者向けのアンケートやヒアリング調査をすることで工事内容の満足度等を調査する場合もあります。
今回は国土交通省のガイドラインにも記載されている大規模修繕の実施時期に関するご紹介と実際の実施事例に基づく考え方についてお伝えしてきました。
大規模修繕工事は非常に高額なコストと多くの時間を必要としますが、物件の資産価値の維持や向上にも影響するほど重要な工事となります。従って、お伝えしたような正確な建物調査診断の結果を通じて、適切な大規模修繕を計画・実施できるように準備していくことが大切になってくるのです。